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ビッグ・コミック・スピリッツ50号

スピリッツを読んだついでに、僕はやっぱり「ボーイズ・オン・ザ・ラン」のことをどこかに書いておかなきゃいけないような気がする。新展開が始まってまだ10週にもみたないはずなので、時間が過ぎてしまう前に、このマンガの第一の山場であった、あの「現実」についてやっぱり僕は思ったことを書いておくべきなのだ!

「笑って別れようと思った女がやっぱり恋敵のことを忘れず考えていた」というあの展開を読んだ瞬間、僕は「ああ、これで彼の現実は終わってしまった。だからここからは非現実が始まるのだろう」と思った。間違いなくあそこまでで作品は「第一部・完」であり、物語世界は大きくその質を変えていくだろう。

第一部における現実、すなわち、好きな女子社員に告白できず、誤解に基づいて破局し、寝取られ、避妊手術に立ち会い、恋敵とケンカして負けるという展開が一体何であったかというと、あれこそは「現実」を描いたものだった。田西が見舞われていく不幸の1つ1つはすべて「現実的な」もので、しかしそれぞれの瞬間において絶え間なく、「愛だけを信じていればいつか必ず奇跡の逆転勝利が訪れる」のような非現実的な希望がマンガ的に期待され続ける。第一部はずっと、最初からその終わりにいたるまで、その非現実が最後に用意されていることだけを期待し、それにハッパをかけられながら展開し、そしてついにそれが満たされないまま現実が破綻するという物語なのである。この作品にとってのリアリズムとは、ついにそれであった。

現実は厳しい。主人公はスーパーマンなどではないのである。一週間訓練したって、格闘技の達人には勝てない。「タクシードライバー」やブルース・リーなどの非現実は、どんなに恋いこがれても現実を変えてはくれない。ケンカに赴くときにモヒカン刈りにするというというのは「髪型を変えれば何かが変わる」という、まさに非現実的な発想によって現実社会から限りなく逸脱してしまったことを意味している。青山の「うすっぺらなんだよ、あんた」というセリフは、田西が非現実をよりどころにして自分の勝利を信じているという意味なのだ。「自分のためにケンカをした」という美しいセリフすら嘘で、ケンカに勝てば彼女の心が手に入るとか、彼女が自分を本当は応援しているのではないかという考えが砕かれたからこそ、田西は彼女が泣くような口汚いセリフを吐くに至ったのだ。第一部の最後のセリフ「くそったれ」とは、ふがいない自分にではなく、もちろん自分に救いをもたらさなかった彼女にでもなく、非現実がついに訪れないことが暴露され、すべてが淡々と終わってしまう「現実」そのものに対して向けられている。カプセルトイ会社の社員たる主人公が、商品である「非現実」たちのまさに非現実的な成功とは、かけ離れそして断絶された場所にいることを示すことで、作者は主人公のいる空間がリアルであると主張しているのである。

僕は第一部を読み終えて、ここまではそういう物語であったのだなと感じた。そして、何となく直感的に「だから来週からは、おそらく180度物事は変わり、非現実が始まるのだろう」と思った。ここからは、おそらくマンガが始まるのだ。始まらざるを得ない。このマンガにおいては、まだ「マンガは」始まっていないということなのだから。180度すべてが変化しないのであれば、伏線として何度もボクシングや金髪少女が出てくる必要自体ないのである。実際、第二部からは韓国で偶然に、かつて一度試合を見たボクサーに出会い、何となく彼のジムを訪れ、突然現れたおっさんに「ボクシングしたいのか」などと尋ねられる、というのが今回までだ。僕は毎週「ほら見ろ」と思っているのだ。非現実的である。まるでマンガなのだ。第一部の、あの毎回はりつめたような空気はもうない。作者がどのような形で田西にボクシングをやらせるのか知らないが、これは現実が終わった後に訪れた、夢の物語なのである。ここから始まる非現実が、田西の現実を回復させるものであるならこの物語はとても美しいと思うが、それは本来第一部において作者が否定したリアリティなのだ。だから、それはやらずに「現実的な非現実」としての「普通のマンガ世界」に主人公を住まわせるのではないか、と想像しているのだけれど、どうなるかしら。「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、最初「ルサンチマン」と全く違った物語を描くのだと僕は思ったが、なんとなくそうではないのかもなあと思い始めている。

なお、蛇足だがちはるの気持ちを常に田西とは全く別に存在させ、その振る舞いも含めてひどく「現実的」に描写しつつ、主人公の「現実」とは全く無関係なので、最後まで深くは触れないままに退場させたのがこの作者の巧みなところである。

2006.11.14 | | コメント(0) | トラックバック(0) | [マンガ

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