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バタアシ金魚

読まなければと思っていた「バタアシ金魚」を読んだ。あまりに辛い読み物だった。

前に書いたと思うが、このマンガが何を描いているかについて満足に語った文章は、ウェブをざっと見る限りほとんどない。関心空間のキーワード解説がかろうじて間違いのないことを書いているという有様だ。マンガ自体についてより映画について書かれた文章の方がまだ多いようである。「BSマンガ夜話」のこのマンガの回では、この物語について、まず「バカの話」と言い、また「スポ根」であるとして語った。そんなことは、僕にとってちょっとあんまりである。

まず「スポ根」についてから考えたい。このマンガが連載を開始したのは85年で、これはあだち充「タッチ」が連載終了する前年のことである。「タッチ」へ詳細に触れてしまうと「バタアシ金魚」から大きく逸脱してしまうのでここではごく簡単に述べるが、あの作品は「ナイン」から始まるあだち充のスポ根ものの変形がひとまず完成を見た作品である。しかし、あれは紛れもなくスポ根の否定ではなく変形である。最終的に恋愛ドラマに主眼が置かれるためにスポ根の否定として例示されるが、しかし努力によって大願を果たし、しかも勝利自体よりも精神的な成長性が重んじられるという基本的な構造はスポ根そのものである。

ところが「バタアシ金魚」は全く違う。「スポ根マンガ」ではないし、「スポーツマンガ」であるかどうかすら怪しい。あだち充が作を重ねてスポ根を徐々に変形させていったその先において、ついにスポ根どころか、スポーツ自体すら無関係に成り立てたマンガなのである。この、スポーツを描きながら、それ自体は全く重要ではないというマンガは当時新しいものだった。だから、これをスポ根と呼んでしまうことは望月峯太郎の新しさを否定することであり、間違いなのである。それなのにこのマンガがスポ根と呼んでしまわれる原因は、主人公カオルのセリフにあると考えていいだろう。

しっかしソノコ君っ
俺がどんな男か
認めさせてやるぞおお
まあず
高校新だして
日本新だして
世界新だして
ご・・・・五輪に出て
そんで水泳で
そんでそんでとにかくっ
すげえコト
やってやんだあ

彼のセリフを単に誇大妄想的なギャグだと理解すると、それはとたんにスポ根のパロディに化ける。「ネアカ、ネクラ」や「シラケつつノリ、ノリつつシラケる」のような時代的な意識を通過した後で訪れた80年代半ばの平凡な高校生活に紛れ込んだ、前時代的な「キャラクター」としてしか彼は扱われなくなる。彼の言動が過去のパロディとして理解される限り、彼は「キャラクター」であり、人間としては扱われない。だから彼は不死身なのである。どんな事故に遭っても死なない。

だが、物語世界が「現実的な」判断でカオルのセリフを「マンガ」として扱おうとしているときに、読者は一緒になって彼のマンガっぷりを楽しんでいてもしかたがないのである。ソノコの友達の女子のように、たとえ彼に好意的にあっても

でも変わってて面白いコだと思う

という、マンガのキャラクターに「かわいい」と言っているレベルでいてはいけないのである。なぜなら、読者には彼の内面で何を考えているか十分すぎるほどに示されるからである。パロディであり人間でないのであれば内面など必要ない。この内面を見て、この物語を「バカの話」として扱えるのは、僕には不思議でならない。作者はカオルに次のようなモノローグを与えている。

ひでえな――
いつの間にか
夏が終わってやんの

ソノコ君はあいかわらず
つれないし・・・・

それにしてもソノコ君は
どーしてわかってくれないんだろ
なんならまゆ毛 片っぽ
剃ってやるぜ

そうしてカオルは水中メガネの中で泣くのだ。彼がただのバカでありパロディ的な存在なのであればこんな内面は全く必要ないのである。このマンガはつまり、現実が思い通りにならない男子高校生の鬱屈を描いた青春マンガそのものなのだ。もはやスポーツが主題でないのは明らかである。彼は確かにスポーツにおける自己実現を求めているが、スポーツが重要ではないことなんて第一話の最初で分かることだ。

ホントのコト言うと
水泳ってあんまり好きじゃ
ないのよね

俺 ホラ
中耳炎のケがあったしさ
ビリー・ホリデイみたいな体型に
コンプレックス持ってたし

下着だってトランクス専門よ
けれど水泳部って
競泳パンツ・・・・
はくんだよ
競泳パンツ――

カオルが欲しいのは「すげえ自分」だけである。もっと言えばソノコの愛だけが欲しいのである。それは「ナイン」が中尾百合の涙を理由にして勝利を目指すのとも違う。なぜならダイエットのために水泳を始めたソノコは勝利など求めていないからだ。そんなことは分かっている。カオルは何か「すげえ自分」をソノコに見せて、とにかくソノコに愛されたいのだ。後にカオルはソノコを抜きにして、純粋に水泳が好きな自分を自覚するが、この問題が本当に語られるのは続編である「お茶の間」においてだし、どっちみちカオルが水泳において成果を出すのも次作である。本作では、カオルは最後の最後になっても、勝利を掴むのではなく未来の自分の影を見ることしかできない。ここではその幸福な未来が自分にはハッキリと見えることが重要であり、まだ誰も知らないその未来をソノコと共有できることだけが幸せなのだった。

僕がこの物語を初めて読んだのは中学生のころだったので、「ああ、何て辛い話だろう」と思った。何もかもが思い通りにならず、誰にも理解されない男子の世界をこれだけ明快に描いた作品はないと思ったのである。

・・・・ボク
――俺は
学校も好きだし先生も学友も好きだし
クラブも好きだよ
いつも若い時代を充実させたいと思っている
なンで笑ってんの?

上記のセリフにはおかしなところは何もない。本心からカオルはそう述べている。ここでは「青臭く素直に感情を表現すると周囲から浮いてしまう」という恐ろしい現実が描かれているのだ。この時点で望月峯太郎は90年代の問題にすら到達していた。読者がこれを「青臭い話だなぁ」と考えても別に構わないが、ソノコと一緒になって彼をバカ扱いしているのでは、この物語は永遠に分からない。今回読み返して、カオルの言葉がいちいち否定されていくのが辛くて仕方がなかった。1巻を読んで悲しくてやめたくなった。

けけ懸命なんだぜ俺は!
見てよ!
この汗っ
平然じゃないよ
いつだって
・・・・いつだって
無理してんのよオレ!

どれだけ彼が懸命なのか考えて、読者は彼をバカだとか変な奴だとか「かわいいキャラクター」だとか言えるだろうか。煩悶する彼を、人間ではないものとして処理しないでほしい。それは彼の懸命さに対してあまりに酷だと思う。彼はそこいらのマンガ以上に人間で、だから本当は不死身でもないのに。

2007.03.06 | | コメント(9) | トラックバック(0) | [マンガ] [映像

コメント

僕も、この漫画好きでした。雑誌連載時に食い入るように読んでいた。自分の、青春でした。いつもゲラゲラ笑ってたけど、薫はカッコいいと思ってましたよ。苑子君もタイプでしたね。

2007-09-02 日 23:50:59 | | まこと #- [ 編集]

まことさん、コメントをありがとうございました!
当時のヤンマガの少しヒネた感じの熱さがよく出てる作品でしたね。ああいうノリって今は絶滅してるのでしょうかねえ。

2007-09-17 月 22:28:54 | | ソメル #- [ 編集]

はじめまして。古い記事にコメントさせていただいてすみません。
ただただ、「今になってこの漫画が採用された」イラストのユニクロTシャツを見てこの漫画を思い出し、「読まなければ」と思い立って検索しました。この漫画の存在を思い出せたことに感謝して、書店に行って取り寄せてもらいます。

2008-08-19 火 21:24:34 | | はぎわら #- [ 編集]

はぎわらさん、コメントありがとうございます!
この記事は、書いた当初は全く反響もなく、このマンガが好きだった自分としては少しさみしい思いをしていたのですが、ときどき訪れてくださるこのマンガを愛する皆さんがコメントを付けてくださって、今ではとてもうれしい記事になりました。どうもありがとうございます。
ユニクロのマンガのTシャツシリーズはバタアシ金魚のものもあるのですか!存じませんでした。
今調べてみました。
http://store.uniqlo.com/jp/CSaGoods/154931-68-002
こちらですね。三巻の表紙を使ったデザインのようですね。ユニクロのマンガのTシャツシリーズはさほど欲しいと思うものもありませんでしたが、これはちょっとあってもいいかなあなんて思ってしまいました。情報ありがとうございました!

2008-08-20 水 01:13:02 | | ソメル #- [ 編集]

こんばんは。

お返事ありがとうございます!!しかも4時間後に!!超うれしいです。

今日、古本でバタアシ金魚を3巻まで買いました!つもりでした。

が、家に帰ってあけたら、
バタアシ金魚1巻 望月峯太郎
バタアシ金魚2巻 望月峯太郎
バイクメ~ン3巻 望月峯太郎
でした。

非常におしいです!なぜ、3巻のぜんぜん関係ない表紙を見て、「粋なデザインだぜ!」などと思ったんでしょうか。

ぼくが買った最強ユニクロTは、ウェブでは売り切れているみたいです。

白地で、
「立てたバイクに横から座っている薫」(奥)が、「犬にスカートを引っ張られているセクシィなソノコ君」(手前)をまじまじと見つめている、紫一色のかっちょいいイラストに、
なんと、右上に金ラメで「バタアシ金魚」の文字であります。是非ともこちらのバージョンを探し出してあげてください!

大学時代、ぼくがトライアスロン部でありながら、水泳部OGでプールで一緒にアルバイトしていた女性を直接対決で倒すべく、個人メドレーの練習ばかりしながらうつ病で薬漬けになって社会復帰不可能になりかけたころの楽しい思い出がよみがえります。

2008-08-21 木 20:08:10 | | はぎわら #- [ 編集]

はぎわらさん、コメントまたまたありがとうございます!「バイクメ~ン」もいい作品ですし、ぜひそろえてみてはいかがでしょうか!
Tシャツはほかの種類もあるのですね!
とても見てみたいです!
ぜひ探してみようと思います。
情報ありがとうございました!

2008-09-04 木 15:16:03 | | ソメル #- [ 編集]

こんばんは。

先日たまたま手にしたこの漫画が
大好きでたまらなくなりました!

私は最終巻のソノコが、薫の言葉を思い出しながら
自分の気持ちを伝えるところが一番のお気に入りです。

好きな子に本心を言う時って一番自分が無防備だから
ついつい危険回避しようとしたりして自分を守ろうとしちゃうけど、ちゃんと「大好きっ」って言うのが大事だなと改めて思いました!

それを誰かに笑われたり馬鹿にされたとしても、
「好きな子に好きっていわずに誰に言うんだよっ」
って言い返せるくらいの強さを持っていたいです。

薫くんが馬鹿なのかもどっちでもよくって、
とにかく自分の気持ちに素直に行動すべしってことを
体現してくれた彼が大好きだーって気持ちをここに書きたくてこんな長文になっちゃいました。。。








2008-11-06 木 01:41:18 | | yayo #- [ 編集]

yayoさんこんばんは!とても素敵なコメントありがとうございます!

> 私は最終巻のソノコが、薫の言葉を思い出しながら
> 自分の気持ちを伝えるところが一番のお気に入りです。

あそこは本当にいいですよね。第一巻の必死な顔をしてソノコに「好きだ」と言うカオルの気持ちを、当時のソノコはわからなかったんだけど、ついに同じ思いになって、必死な思いで相手に「好きだ」って伝えようとするんですよね。名シーンです!

yayoさんをはじめ、この記事にコメントをくださる方がこんなにいらっしゃって、すごくうれしいです。ブログにこの記事を書いたときには、もうみんなこんなマンガ読まないのかな、ちょっとさみしいな、と思っていたんですが、こんなにもたくさんの方がちゃんとこのマンガを愛しているんだということがわかってうれしいです。ありがとうございます。

2008-11-08 土 23:25:59 | | ソメル #- [ 編集]

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2011-01-19 水 11:22:51 | | # [ 編集]

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